この時期、どんよりと曇った日や暗~い夜の森の中から、
「ヒィィ~ん・・・ちぃぃ~ん・・・・・・」
「フィィィィ~ン・・・・・・・」
という、か細い音が聞こえます。
先日の講習会で、
「不気味な音が森の中から聞こえるんですけど・・・」
という質問がありました。
確かにこんな音が真っ暗な森の奥から聞こえてきたら、それはそれは不気味でしょう。
まさに魑魅魍魎の交わす声のよう。
正体は「トラツグミ」という鳥の声。(→トラツグミの声mp3.)
いにしえの人々にとっても、この声はさぞかし不気味だったようで、
それは、「鵺(ぬえ)」という妖怪の声とされていました。
「平家物語」では、その姿は、頭が猿、体は狸、尾は蛇、手足は虎とされる、たいそうな妖怪。
鳴き声を聞いたものの心を憑き殺し、魂を喰らうとされています。
平安の世で帝を守るために、源氏一門で武勇の誉れ高い源頼政が退治した妖怪も鵺でした。
都で討ち取られた鵺の死体は今の静岡県に落ち、その頭・胴・羽・尾が落ちてきた地にはそれぞれ、
鵺代、胴崎、羽平、尾奈、という地名が残ったほどです。
その後の「太平記」では、、口から火を吐く人首蛇身の怪鳥、と紹介され、
黒雲を身に纏いながら徘徊する、という見事な復活も果たしています。
さらに近年では、映画「悪霊島」で、
“鵺の啼く夜は恐ろしい”
というフレーズが効果的に使われています。
いつの世でも、暗雲に乗って空を駆け巡り、凶事をなす正体不明の妖怪だったのです。
トラツグミの生態を調べると、
「里の丘陵から低山帯の山地の、暗い広葉樹林や針広混交林に生息」
とあります。
また、色々な文献や伝説を読んでも、昔の人々にとって妖怪と “恐れられた” この鳥の声は、
“畏れられていた” ようにも感じます。
それだけ人の住む里山に生息し、よく声が聞かれた鳥です。
しかし今や、深山幽谷の鳥のイメージ。
そんな妖怪(?)の声も、以前ほど頻繁に聞くことが出来なくなっているような気がして、
残念でなりません。
こんな魑魅魍魎が跋扈する森がいつまでも残されるよう・・・。
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