ビーカー理論と名付けてます

今回は必ずしも”ガイド向け”というわけではありませんが、長文です。

自然の勉強を始めた―
ピアノの練習を始めた―
スキーの練習を始めた―

なんでもいいですが、何か新しい勉強や技術の習得、趣味をやりだしたばかりって、楽しいですよね。

知識やテクニックや考え方など何から何まで新鮮で、それを吸収していくことで自分がどんどん変わっていくような気がします。これぞ充実感。

しかしそれが数年、十数年と続くと、何か昔のように楽しめない ……モチベーションがもてない……。
それが趣味ならしばらく止めてまたやりたくなったら再開すればいいけど、それが ”やらないとイケないこと” だと、「やらねばならぬ」と「なんか、やる気が出ないなぁ 」の板挟みになったりします。

また、「昔の自分は、もっと純粋に楽しんでいたのに…… 」なんて、自分を見つめ直すような深い思考の沼にハマってしまったりする人もいるかもしれません。

でもこんなことって、誰にでもよくあるんじゃないでしょうか?私もこんな気持ち、よくあります。

こんな現象を私は「ビーカー理論」と名付けて頭を整理しています。無駄に考え込まないために。

※「ビーカー」じゃなくて「コップ」の方がいいんじゃない?とも感じますが、そこはまぁ…どうでもいいです。

ビーカーに水を溜める

勉強や技術を学び出す時は当然”それ”についての経験値はなく、まず自分の中に、これからの経験値を溜め込む器(=ビーカー)のようなものが初めて作られると思って下さい。

その器に、知識や技術といった経験(=水)を溜めていく行為を”勉強”とか”練習”と言ったりするのですが、初めうちの器(ビーカー)はとても小さく、水を少し入れればあっという間に溜まり、溢れます。

すると人は、その水が溢れた瞬間に『楽しい!』と感じるわけです。勉強とかのスキルアップならば、充実感を感じる瞬間とも言えますね。

だけど一度水が溢れると、次にその人の中に用意される器(ビーカー)は少し大きくなります

すると、同じように「水」を溜め込んでもなかなか溢れない。より多くの水(経験)を溜め込まないといけません。つまり、水が溢れる(楽しさを感じる)までに、前回よりも少し多くの時間がかかるのです。
だからそんな過程で、同じ種類のビーカーなんだけど微妙に形や色の違うビーカーを用意したりして、自身の知識や技術にバリエーションを持たせたりもします。

そんなふうに、水を入れては溢れさせて――を何度も何度も繰り返してきた人のビーカーは特大中の特大になっているわけで、それを溢れさせるには大量の水が必要となります。
さらに微妙に形が違うビーカーも数多く揃っていて、それぞれが大きい。

だけど蛇口の数(経験値を積める時間)には限りがあります。

ビーカーから水が溢れた瞬間が楽しさを感じる瞬間なのだから、純粋に楽しいと思えることはなかなかやってきません。こんなときに、「昔はもっと楽しかったのに」と感じたりするのでしょう。

そうなるとここでひと区切りをつけて、新しいことにチャレンジするのもひとつのやり方でもあります。そうすればまた、ビーカーに水を溜めて・溢れて――という刺激に触れながら、自身の幅を広げられます。

ここが「ひとつのことを深めたいタイプ」と「色々なことにチャレンジしたいタイプ」の個性に分かれる所ですね。
ちなみに私は、30代半ばまでは完全に後者。それなりに色んなことをやってきました。実は。
その反動か、今は完全に前者の「深めたいタイプ」になりました。

深めたいタイプの人は、ここで蛇口を締めて水を溜め込まなくしたらおしまいです。
少しずつでも水を入れ続ければ、いつかきっと水が溢れます。
しかももしかすると、経験値を積んだ人の特大のビーカーに溜めている一滴一滴の”水”は、普通の人では口にしたこともない濃密な水かもしれません。そう信じて…。

なんだかやる気が起きなくなっても、「そういうもんだ」と言い聞かせながら、休みながら、チマチマ・コツコツと続けるのが一番です。(そのためにも、こんなふうに一般的傾向を整理・言語化しておき、無駄に考え込まないのがいいのです)

ワタシ的には、やる気が落ちた時の”劇薬”のような対処療法もあるっちゃーありますが、それはまた機会があれば(笑)

研究者やプロフェッショナルな人たちは、そんな中でも自身の中に楽しさを見い出し、いくつになっても好奇心と行動力を持ち続けていることが本当にスゴい。

持っている知識や技術の量がスゴいんじゃない。
こんな、いつやってくるか分からない楽しさを求めて、コツコツと積み重ねられる姿勢がスゴいんです。

実は伝え手にこそ

実はこのビーカー理論、ガイドにとってはここからが大事。

ガイドはまず、「参加者のビーカーの大きさ」を見極める必要があります。
ビーカーの大きさとは、(何かについての)経験値ですね。ヤブキ用語的には「受け入れ体制」とも言ったりしています。

そうして参加者のビーカーの大きさを見極めた上で、その大きさに合った蛇口のひねり方が大事です。
小さなビーカーにじゃばじゃばと大量の水を送り込んでも、効率よく水は溜まりません。
”ほどほどより少し多い” くらいの蛇口のひねり具合の方が効率よく溜まって、溢れるものです。

参加者のビーカーの大きさ(経験値の量)を見極めた上で、その大きさに合わせた水の量(情報量)を調整し、効率良く溢れさせましょう。
その瞬間こそが、お客様が「楽しい!」と思ってくれる瞬間のはず。流暢に話しながら水(情報)を大量に出し続ければいいってもんじゃありません。

そうして一度溢れさせたら、また少し形や色の違うビーカーも用意してあげて、違う側面でも「水」を注入してまた溢れさせましょう。

参加者の持っているビーカーの大きさを見極めることと、適切な蛇口の捻り具合こそが、伝える上での本質でもあります。

と、散々エラそうなことを言っておいて、私もいまだに上手く出来ません。
だけど、こんな意識とトライアンドエラーを繰り返すことが、ガイドには大事な意識なんだと思っています。

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