3月に入り天気の良い日に森の中を歩いていると、黒い昆虫が雪上を歩いているのを見かけます。
カワゲラやユスリカの仲間たちなのですが、その中でも翅(はね)のないカワゲラはセッケイカワゲラといいます。
今日もたくさんのセッケイカワゲラがせっせと歩いていました。
虫の存在を忘れてしまう厳しい冬が過ぎ、太陽の下、一面の雪の上をえっちらおっちら歩いている姿は、
「春だな~。暖かくなってきて虫も喜んでるんだなぁ~」
と、ほのぼのと感じます。
セッケイカワゲラは春の季語にもなっていて、歳時記でいう「雪虫」。
北海道で「ユキムシ」というと初雪の到来を告げる晩秋の虫なのですが、歳時記ではそちらは「綿虫」。
春の雪虫(=セッケイカワゲラ)は、「雪消し虫」とか「雪解虫」などとも言われます。
やっぱり人間にとっては、春到来!のムシなんです。
しかし、このセッケイカワゲラ、暖かさを喜んでいるわけではなさそうで・・・。
生きていける温度域は-10℃~+10℃くらいと言われています。
手の上に乗せただけで、人間の体温で体が麻痺してしまい、動きが鈍ってしまうほど。
+20℃ほどの気温になると死んでしまいます。
生活史もなかなかユニーク。
生活の場は年間を通して水温の低い川。
春~夏まで幼虫は水中の中でほとんど成長せずにじっとして、秋に落ち葉などを食べながら急速に成長します。
そして冬になると、成虫となって陸に上がります。
さてそこからが試練。
水の中にいる幼虫時代は、川の流れによってどうしても下流側に流されてしまいます。
成虫になってそのまま産卵すると、川の下手の方にばかり卵が溜まってしまいます。
それではイカン。
そこで、翅(はね)を持たない成虫は、幼虫時代に流されてしまった分を取り返すべく、上流に向けて歩き出します。
しかも気温が上がっちゃったら、動けなくなっちゃう・・・。
なんとか寒いウチに上流に着かねばなりません。
体長1センチほどの体にとっては、数百m、時には数kmの道のりは果てしないわけで・・・。
そりゃ必死でしょう。
しかしどうして、“自分が今、川沿いを歩いている” と分かるのか、不思議に思ったことがあります。
1センチほどの虫の視界では川は見えてないだろうに・・・。
やっぱり同じような疑問を持って研究する人がいるもんで、
どうやら、体内に太陽コンパスをもっていて、方向を間違えずに歩けるらしい。
しかも、体内に傾斜計まで持っていて、体の片側が傾き続けていることで、川沿いの傾斜を感知するらしい。
すごいですな・・・。
じゃ、“何もない雪の上で何食ってんの?”と、またギモン・・・。
いやいや、小さな虫にとって雪の上は豊穣な大地だと。
微生物や小さな虫の死骸、藻や苔の類、動物の糞などなど。
小さな体を維持するには十分すぎるほどの食料が、真っ白な雪面には広がっているワケであります。
こんなことを知らないワタシは、暖かくなったのを喜んで歩き回っている、などと勝手に思っていたわけですが、
「産卵と寒さ」いうタイムリミットに向けて、必死に歩いているのでした。
人間の尺度でモノを見てもなんにも分からないわけで、「知る」と180度違う“目”で見えてきます。
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コメント
それはそれはよかった。
是非、実際にみんなで見に来てね~。
たまにはこんなふうにキチンと書くので、お楽しみに。
面白い講義をどうもありがとう。
子供と共に読みました。
「(NHKでやってる)”ダーウィンが来た”みたいで面白いっ!」と大変喜んでおりましたよ。
つい先日クマゲラの回を見たばかりで、全の所に見に行くと言っていたのでその際はよろしく。
次の回を楽しみしておりますよぉ。
>TOGZさん
ありがとうございます。
知れば知るほどムズカシく、楽しいですね。
たまに“自然ガイド”らしいことも書きますので(笑)、お付き合いよろしくお願いします。
なるほど….。
雪虫についての講義、よくわかりました。
私も春前のザラメ状の雪の中で何回も見かけ、
写真にも撮ったことがあります。
こんな冷たい雪の上によくいるな、と感心して見ているくらいでした。
人間の目線と当事者には大きな違いがあるんですネ。
もっと自然の生き物に敬意を払って見てみます。
よい話、ありがとうございました。