数日前に小包が届きました。
送り主は青森県県土整備部道路課。
「はて?何のお付き合いだっけ?」と思いつつ封を開けると、一冊の本が。
表紙のタイトルを見て、すぐに合点がいきました。
『奥入瀬自然誌博物館』 ~立ちどまるから、見えてくる~
著者の河井大輔氏は、北海道野鳥図鑑の筆者の一人であり、自然関連誌のライターとしても独自の自然観察眼と感性が光る魅力的な文章を書かれています。
さらに十和田奥入瀬の自然の魅力を紹介するインタープリター(自然ガイド)としても活躍されています。
私も奥入瀬に遊びに行くたびに、美味しいお酒を酌み交わしつつ、アツイ談義を楽しませてもらってます。
そんな河井氏がまとめた、十和田奥入瀬の自然の魅力・楽しみ方の本が刊行されました。
本を手にするとまず、マットな質感の紙の手触りと、独自の視点が光る写真の数々に目を奪われます。
まずは、ペラペラと眺めるだけでも良さそうです。
フツーの自然ガイドブックって、そこに生息する動植物の“名前”や“ルート”が主たる内容になるものです。
自然体験観光も同じように、動植物の名前や一般受けする美しい風景(展望台など)を紹介することがメインになりがち。
しかし、それだけでは自然をみたこと・知ったことにはなりません。
何気ない動植物がどのように地域の自然と繋がっているのか―、
目を引くような見た目が派手な花だけではなく、多種多様な動植物・コケやシダ・地衣類・昆虫・地質・地史、人間の営みまでもがひとつのストーリーとなり、地域の自然を作り出している―。
そんな観点が、一冊を通して貫かれています。
これは、幅広く奥深い知識と見識、それを表現する多彩な文章力がなせる河井氏の真骨頂。
ちなみにこの本は、フィールドで持ち歩いて植物を観察したりするための本ではありません。“名前”を知るための図鑑ではありませんので。
じっくりと文章を読んで自然全体のストーリーを俯瞰し、写真を眺めながら自然美を愛でるための本です。
そんな気持ちで実際の自然と対峙し、自分自身の目で自然の美と壮大な仕組みに気付くための本です。
正しく自然をみるためには、“名前”を正しく知り、“違い”をキチンと見い出す科学的な視点を持つことはとても大事なこと。
しかしひとつの視点だけでなく、それぞれの繋がりを知り、それぞれを愛でて、自然の姿に新たな気付きを見い出すことはもっと大事なことかもしれません。
そのためには、時間と観光ポイントを重視する従来の自然観光スタイルではなく、いかに時間をかけてそこの自然を知ろうとするか、という自然との付き合い方が必要です。「一度行ったからもういい」というアクティビティとは大きく違うのです。
そんな新しい自然観光スタイルをも感じさせてくれる本となっています。
こんなふうな自然観光のスタイルは、数を重視してきた既存の自然観光とは対極をなすものです。
「立ち止まって、ゆっくり過ごす」というツアースタイルも、ガイド技術の難しさの割に理解・尊重されにくい観光スタイルで、まだまだ認知されていません。
しかし、これからの自然観光はこうあるべきです。
そんなスタイルの提案をする本を、観光課でも環境課でもない「道路課」が発注・発刊するなんて、そういう意味でも先鋭的な価値のある自然ガイドブックとなっています。
奥入瀬に行ったことがある方はもちろん、行ったことがない方・行く予定も今のところない、という方も、自然好きな方であればぜひ読んでみてください。
販売は4月末以降となりそうですが、下記ホームページから購入できるようになるようです。お問い合わせを。
→NPO法人「奥入瀬自然観光資源研究会」
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