この山容を見て「!?」と思った人は、かなりの北海道自然ツウでしょう。
崕山(きりぎしやま)。
道内で自然に携わる者なら、たいてい知っている(知らないといけない)山です。
1980年代、世は登山ブーム、山野草・園芸ブームの時代―。
多くの人が一気に山に押し寄せることで多くの山がオーバーユースの状態を引き起こし、さらにはランを始めとする花や高山植物などの貴重な花々が高値で取引された時代でもあります。
石灰岩の山のために固有種や多くの貴重な植物の大群生地だったこの山も、そんな時代の波にのまれるように道は荒れ、さらに一部の心ない人たちの激しい盗掘圧が追い打ちをかけました。
一面に咲く固有種のキリギシソウを始め、いまや厳重な保護の元でしかほどんと見ることのないアツモリソウなど、取り尽くされるほどに盗掘されたこともあります。
40年近く前には足の踏み場もないほどアツモリソウが咲き誇っていたものが、90年代末の調査では2株しか確認出来なかったほどと言われています。
そこで1999年、野生生物の種の保存を目的に入山制限がもうけられ、それ以降は学術目的などの特段の理由がない限り、原則的に登ることの出来ない山となりました。
山そのものに人を入らせない、というのは国内でも異例の措置です。
私もそんな崕山についてはガイドになったばかりの頃に知り、入山制限がかかった数年後にふと「あぁ~もう行けない山になっちゃったんだ…」と感じた記憶があります。
そこに今年、調査仕事で行く機会がありました。
登ってはいないので核心部には足を踏み入れていませんが、登山口付近をウロチョロしてました。
登山口の遥か手前に、自転車やバイクの侵入すら拒むようなしっかりとしたゲートが2つ続きます。
その上、ゲートの鍵も普通の南京錠ではなく、複製が出来ない外国製の見たこともない鍵です。
たとえ無理やり入ったとしても、歩いて登山口まで行くだけで遠い、という距離感。誰も行けないので人間はひとりもおらず、ヒグマの天下のような森ですし。
登山口から見た崕山。
石灰岩の露岩が見えます。
20年近く人が立ち入らないことで個々の植物は絶滅寸前の状態から多少の回復を見せ、山の植生も多少の回復傾向ではありますが、まだまだ昔のような自然の姿には程遠い状態。
自然をキチンと見て・知る楽しさを感じる人がひとりでも増えていき、そんな頃には昔のように貴重な花々が咲き誇る山に回復し、いつか自然を愛する人たちが普通に楽しめる山になることを願っています。
ホテイアツモリ(2011年6月 留萌管内にて)
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