人と歩くことの優位性

今回の内容は、完全にガイド向けです。
趣味で自然を楽しんでいる人はこの記事はスルーで。

今でこそニセコには、自然ガイドさんや自然に啓蒙の深い山岳ガイド・スキーガイドさんの他、「自然のことをきちんと知りたい!」という高いモチベーションを持った若いガイドさんがたくさんいて、その繋がりもありますが、ワタシが自然ガイドの勉強をしだした頃のニセコにはそんなタイプのガイドは周囲にあまりいませんでした(繋がりがなかっただけかと思いますが)。

なので私、自然を知るためのフィールドワークや自然ガイドのスキルアップはいつもひとりっきり。
ひとりで歩き、ひとりで疑問を持ち、ひとりじゃいつまでも解決出来ないから、アドバイスもなしに闇雲に歩いたり本を買い漁ったりしてひとりで悩み……ひとつの分からない鳥の声が判明するまで三年もかかったこともあります。

ひとりで歩くことの良さ、という部分も当然たくさんあるのですが、今日はデメリットの部分を私の経験から紹介します。

メリットもあるけど…

  • 気を使わなくて良くて、楽
  • 予定を合わせる必要がない
  • ペースや時間・体力も気にしない
  • 気分でいつでも帰れる
  • 趣味・嗜好は自分の思うまま
  • 自分の知識レベルにあった観察が楽しめる
  • そもそも話し相手なんかいらない(!?)

ぱっと思いつくだけでもこのくらいのメリットはあるけども、これらは個人の嗜好と ”ナチュラリストとしてのフィールドワーク に関係する部分なんで、”ガイドとしてのフィールドワーク で得られるスキルとはあまり関係ありません。

ガイドは自分以外の様々な着眼点や見方に触れ、見解に触れ、様々な知識や価値観に触れることが日頃からとても大事なことなんで、「自分のペースと興味の思うままに気楽に楽しめるから、常にひとりがいい」というのは趣味人としてはいいけども、ガイドらしくないな、とも思います。

自分以外の人がどう感じ、どこに疑問を持ち、どのくらいの経験値を持っていて、どのくらいで飽きが来て…そんな ”人の自然の接し方・見方を理解しようとするアンテナ” は、人と歩くことによって磨くことが出来るのです。

デメリット① スキルアップ効率が悪い

決して効率がすべてではないし、ひとつの鳥の声を判明するまで三年かかった、という効率の悪い経験が今やひとつの資産ともなっています。
ただ、ガイドは仕事なんで、仕事である以上、スキルアップと称して効率の悪いフィールドワークを続けてはダメで、ある程度の短い時間で一定の成果をだすべきです。

効率の悪いフィールドワークをただ繰り返すだけでツアー(アウトプット)をする機会がないんじゃ、なんのためにスキルアップをしているのか分かりません。趣味なら全然OK

それなりのフィールドワーク(スキルアップ)の効率を図るためにも、知識共有したり、教えあったり、見解や見方を知り合って効率を上げながらフィールドワークの成果を出すことはとても大事です。

デメリット② スキルアップの優先順位を間違えやすい

自然の勉強やガイドの勉強には優先順位や順番があります。

「そこいらの花を知らないのに、いきなりシダの勉強を始める」には無理があるしこれも趣味なら全然OKですよ、自然の知識ばかりつけてガイド技術を磨いていなかったらスキルアップとしては全く不十分です。

私は当初、この勉強の優先順位がまったく分かっていませんでした。気の赴くままフィールドワークをして、気の赴くまま自然の勉強をするのみ。だけど、それをツッコんでくれる人はいない。
結果、1~2年経ってから順番の間違いに気づいたりして。
軌道修正すべきなのかどうかを自分で気づけないから、効率はさらに悪くなります。

デメリット③ 勘違いに気づかない

動植物を識別する時には、勘違い思い込みがよく起きます

「これが○○で、これが○○だ!」なんて思って自信満々でいたら、数年後、ふとした時に『えっ?!これって○○じゃないの?』なんてツッコまれた経験が私にはたくさんあります。

ずっと勘違いしっぱなし。

見ている気になって見ていない。調べているつもりで調べきれていない。
タチが悪いことに、自分が勘違いしている、ということ自体に気づいていない

これを適宜修正するには、人と歩き、人の見解や意見に日頃から触れることが何より大事です。

デメリット④ ”教えるツアー”になりがち

人と見解や見方、価値観を認めて分かち合うことに慣れていないと、自分でツアーをやる時に、自分の見解や知識を”教える” ツアーになりがちです。

ドキっとしたガイドさんいませんか?そういうツアーをやったことありませんか?
私はたくさんあります。

少なくともそういうツアーはやりたくないとは思っていますが、いまだに「勉強になりました」的なツアーをやっちゃうことがあります。

デメリット⑤ そもそも見えていないものには気づけない

自然の中で人は、知っているものしか見えてこないものです。
見たいものしか見えてこないものです。
そして、見えていないものには気づけません

自分のふたつの目とひとつの脳で気付けることなんて、自然の中のほんの一部。
単純に、目と脳が倍になれば、倍のことに気づけます。

これ、間違いない。

何より、私、いまだに ”見えていない自分” に気づかされます。
お客さんに「これ、なんですか?」と聞かれて初めて気づいたものもたくさんあるし。

だから、未だに見えてない部分がたくさんあるだろうから、人と歩きたい。
今までひとりっきりで歩いてどれだけ見落としていたのだろう…。もったいない。

デメリット⑥ 自己評価力がつきにくい

自分が今どの程度の技術力を持っているのか、または、出来ていないのかーこんな自己評価を正しく出来ることはとても難しく、大事なことです。

自分のガイド技術や知識力・やっているツアーにいつまでも自信が持てないのは良くないことですが、妙な自信があるのも困ったもの。
私も妙な自信を持っていた頃、あります。よっぽど今よりも自信があったかも(笑)

他のガイドさんの技術を正しく分析出来る他者評価力と、自分の技術を正しく分析出来る自己評価力も、人と歩くことで養われます。

これらすべて、結果的に後から気づいた、”ひとりで歩いてばかりいると起こり得るデメリット” です。これらをカバーしていくのにずいぶんとかかりました。

ガイドになりたての頃、「人を頼って聞いてみたり、人を誘って一緒に歩いてみたり、そんな当たり前のことが当たり前に出来ることも、自然ガイドの大事なセンスのひとつ」と言われたことがありますが、そんな意味を深く、正確に理解するのにずいぶんかかりました。
その分、ガイド技術をつけるのにずいぶん遠回りしました。

何かを教わるのも大事ですがそこまでいかなくても、ただ一緒に歩きながら話しているだけで気付けることってたくさんあって、そんな所がガイドのスキルアップにとても重要です。

同じ轍を踏まないように。

コメント

  1. 野田和規 より:

    先程メール送らせてもらってこちら読んだのですが、読んでから送りたかったです。😂
    シダもやりたいと送りましたがそちらは趣味です。笑

    • Ftre-zen Ftre-zen より:

      メールありがとうございます。返信文でご検討下さい。
      シダは是非ぜひ!
      「対象として美しいので見ているだけいい」から、「名前も分かるようになりたい!」になるなんてスバラシイ!
      ぜひ深く楽しい知の世界へ入りこみましょう。ズブズブズブ……。

This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.