地域の自然を記録する

先日の調査での鏡沼湿原

ここ数年のニセコは国際リゾートとして新たにホテルや施設が多く建っています。
既存の遊歩道を歩く人は以前よりも増え、新たなアクティビティも生まれています。

そんな時によく問題になるのが、開発と自然環境とのバランス。

万が一そんな話題が議論されることになっても、”以前の自然環境がどうだったのか?” という客観的な基礎データがないと、感情論や誰かの感覚的な経験則に頼った話しになってしまって話し合いになりません。

だからといって、信頼性に足る基礎データを蓄積することはなかなか難しい……。

『自然ガイドは自然の中を人より歩いてナンボ、科学的に見られるようにならないとイカン』

というかつての教えの元、2005年からニセコエリアの鳥調査を”自分の趣味”として続けてきましたが、今年度から倶知安町の施設である倶知安風土館(博物館)が主体となって、町の自然環境を記録することが始まりました。

まずは、既存の自然遊歩道周辺に生育しているすべての植物(樹木・草本・シダ・スゲ・イネ)と鳥類を正規の調査方法に則って同定・記録し、さらには法律的な重要度の枠に関係なく「これはなかなかニセコらしいよね」というトピックがあればそれらも記録していきます。
後者の記録は完全に記録者の独断と偏見ですが、そんな記録も残すことで、正規の環境調査業務では拾われないような地域の特徴的な自然を記録出来るでしょう。

そしてそれらの記録を地元の博物館が蓄積していく。
しかも一回限りの調査ではなく、年何回かを毎年継続的に。
こんなことはプロの環境調査員では出来ず、地元のプロガイドにしか出来ないですから。
ゆくゆくは遊歩道・観光地の枠や行政区画の枠にとらわれずに、ニセコ地域を代表するような様々な自然環境をもピックアップしていけるといいですね。

17年前に誰に頼まれるわけでもなく、報酬が発生するわけでもなく、チマチマとひとりで鳥の記録を取り始めたことが、今ではこんなふうに地元博物館の業務として行われています。
個人的には、感慨深い大きな一歩です。何より「重要性を理解してくれた」ことが嬉しい。

特に何か ”コレ!” という珍しくてキャッチーなものを探すわけではなく、「そりゃあるよね」というものを記録することがほぼすべての仕事なので、とても地味で、「なんのためにやるのよ」と言われるような活動です。
しかもそれを5年・10年とやり続けていかないと、あまり意味を成しません。
正直、面白いか、と言われると微妙です。
だけども基礎データの収集って、そんなものです。

”今の” 自然を ”今から” 集積していくことで、”これからの予期せぬ変化” が初めて読み取れるようになるわけで、そんな一見意味のなさそうな地味な活動にこそ価値があるはずです。

私には、流行りのSDGsだとか持続可能な…だとか言う前に、日々どんどん移り変わる自然をつぶさに見て記録を残していく方が性に合っています。

こんなことに多大な理解を示してくれた、倶知安風土館学芸員の方には感謝の気持ちでいっぱいです。

将来、自然環境に大きな変化が起きずこんな基礎データが活用されないことが一番なのですが、少なくともこの先、この地域の自然を詳しく知りたい人にはこんなリストがあるだけで役立つだろうし、地元博物館に自然情報が集積されていること自体に大きな意味があるのです。

午前3:50の鳥調査

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